父の苦悩

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 あれから四十五年が経ちました。私は九十、息子は五十になります。  今、そこで騒いでいる男が私の息子です。  私が外を散歩していると、遠くの方で誰かが騒いでおりました。  少し近付いてみると、男が街頭のテレビに向かって「おい! 聞こえてるんだろ!? 無視するな!」と言いながらテレビ画面を叩いているのが見えました。  周りの人々は彼を避けるように歩いています。そのうちの一人が、警察に通報をしたようです。  私はもう少しだけ近付いて、それが自分の息子であることを確認しました。  本当は、近付く前から分かっていました。こんなことをするのは私の息子以外にいないからです。  これまでにも何度も警察のお世話になりました。何度息子を叱っても、息子はあのとき信じたことを絶対に疑わないのです。息子には罪の意識など微塵もないのです。ただ純粋に、いつまでも信じているだけなのです。  もうすぐ私の携帯電話に、警察から電話がかかってくるでしょう。  私はもう老い先短い老人です。  こんな年になっても未だ、私の信じた教育方針は正しかったのかどうか、悩み続けているのです。 【完】
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