父の苦悩

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 警察の方が言うに、どうやらこういうことらしいのです。  息子がスーパーに行くと、願い事の通り、クレープ屋さんが来ていました。  既に注文待ちのお客さんが列をなしていましたが、まだ誰もクレープを受け取ってはいませんでした。  息子は毒が入っていると思い込んでいるので、並んでいる人たちに「このクレープは食べちゃダメ! 悪いのが入ってるから!」と大声で言いました。 「おかしなことを言うな!」とクレープ屋の店主に怒鳴られても、息子は頑なに「食べちゃダメ! 買っちゃダメ!」と泣きながらにお客さんに訴えました。大好きなクレープ屋さんにこんなことを言うのは、息子も辛かったと思います。  お客さんは、子どもの言うことだと思いながらも、そう言われては何だか心配だったのでしょう。みんな列から離れていきました。  店主は勘弁ならないと警察に連絡しました。 「子どもが変なことを言いふらしたせいで、商売が出来なくなった。調べて、潔白を証明してくれ」と。  警察がクレープを調べると、たしかにクレープに異物が混ざっていたことが認められたのです。  クレープ屋さんはスーパーに来る前、移動販売車の塗装を塗りなおしていたそうなのです。クレープの絵なので当然、クリーム色でした。そのペンキをどうやら手違いでクレープの粉を溶いた容器に混入してしまったようで、クレープからはペンキの成分が出てきたそうです。  警察官が息子に、どうしてペンキが入っていることが分かったのかと尋ねると、息子は正直に大真面目にテレビと流れ星の話をしたそうです。そして、子どものかわいい勘違いが、偶然にも本当になってしまったのだということが分かりました。
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