父の苦悩

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 警察は息子を「多くの命を守った子」として表彰しました。  この流れ星事件は地元の新聞にも取り上げられました。「どんな教育をしたら、こんな素晴らしい子に育つのですか?」などと、私もインタビューを受けたりして、自信満々にこう答えました。 「『いつまでも純粋な心を持って、人を疑うよりも信じる子になって欲しい』私の教育方針はそれだけです」  今でもその新聞の切り抜きは、家のどこかにしまってあることでしょう。  この流れ星事件をきっかけに、息子の「テレビの中の人から自分が見えているのではないか」という考えは、「テレビの中の人から自分が見えている」という確信に変わりました。偶然が重なったとはいえ、息子にはそう信じるだけの、いくつもの実績があったのです。  純粋な心、信じる心。そのどちらも併せ持っている。息子は私の誇りでした。  サンタクロースを信じている子どもも、いずれ本当はサンタクロースはいないのだと悟ります。  息子もいずれ、テレビの中の人から自分は見えていないということを悟る。大人がみな、それが当然だと思うように、息子も当然だと思うようになる。こんな風に信じていられるのは子どものうちだけ、今だけだと。  しかし、私の息子はあまりにも純粋だった。
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