渇望の夏

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やがて、雨脚が弱まりはじめた。 美術館の側までタクシーを手配し、二人で外に出る。 まだ、細かい雨が落ちる中、手を引かれて美術館の広い庭を小走りで急ぐ。 まるで、思春期の頃に戻ったように心が弾む。 タクシーに二人で乗り込んだ。 「沙羅さん、大丈夫ですか、雨に濡れちゃいました?」 「ほんの少しです。直ぐに乾きます」 「雨は、時として厄介なものであったりしますが、生命を維持するのに欠かせない恵の雨でもあります。そういう雨の事なんて言うか知っていますか?」 「なんて、言うのですか」 「”甘雨”って、言うんですよ。草木を潤して育てる雨です」 ”甘雨” 草木を潤し育てる雨。今の私には沁み入る言葉。渇いた心に甘雨が降り始めた。 ああ、どうしよう。出会ったばかりの人に心がときめいている。 とうに忘れてしまった恋の芽が甘雨によって息吹を吹き込まれ芽を出し始めてしまった。 老舗の割烹料理のお店に着くと個室に案内される。 すごい。こんなお店なんて初めて、一人では絶対に来なかったし、例え主人とだって絶対に来なかったはずだ。 「好き嫌いやアレルギーなどは大丈夫ですか?生麩やのどぐろなどのコースにしちゃったんですけど、苦手な物があったら相談できるから」 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。すごいお店で緊張しています」 「一人だと入れないから御一緒してもらえてよかった」 綿貫さんは、柔らかく微笑む。 その笑顔に見惚れてしまう。  
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