渇望の夏

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自分は、『抱かれる価値もないのか』そう思うとあまりにも切ない 子供の『母親』であり 家庭を守る『主婦』で 主人にとっては『それだけ』で        もう『女』ではないのか 涙が止まらない 膝を付き泣き崩れた 胸が詰まる 24歳で結婚、25歳で娘の詩織が生まれて 「詩織ちゃんのママ」や「岩崎さんの奥さん」と呼ばれ いつの間にか「岩崎 沙羅」は、ぼやけてしまった。 もう、41歳「女」としても魅力や輝きはなく肌も衰え始めている。 ただ、このまま枯れるのかと思うと自分が可哀そうだと思った。 誰にも愛されずただ朽ちていく自分が不憫でならない。 自分はこのまま老いに向かって行くのだろうか。 もう女として誰にも愛されないのだろうか。 このまま枯れて行く自分を見るだけ 女として終わって行くのか 悲しく寂しく哀れな 終わりがくるのか 嗚咽が洩れる 心が壊れる ひび割れる 枯渇する 干乾びる 悴せる  空虚 渇く 凋む 嗄びる 侘しい 口喝する 寄る辺ない もう、涙も出ない 心に穴が空いたようだ フラフラと立ち上がると 洗面台に向かい、顔を洗う。 目の前の鏡に映る自分が惨めだった。 惨めな自分を覆い隠すように丁寧に化粧を施す。 眉を整え、アイライナーを引き、シャドウを入れる。 チークで頬を明るくし、口唇にルージュを引いた。 髪にドライヤーを当てトリートメント剤で艶を出す。 着ていた服を脱ぎ捨て、ワンピースに着替え,バッグに服を詰め、 引き出しの奥に隠して置いたへそくり用の通帳を取り出す。 そのうち、家族で海外旅行にでも行こうとコツコツ貯めた通帳の預金額は結構な額面だ。バッグに通帳を入れて、結婚指輪を外し化粧台の上に置く。 そして、立ち上がり玄関のドアを開けた。
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