渇望の夏

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衝動的に家を飛び出した私は、バスや電車を乗り継ぎ新幹線に乘った。 別に目的がある訳ではなかったが、あの家の中でただ朽ちていく自分の姿を見つめるのは、いたたまれず、何処か遠くに行こうと思った。 東京から新幹線で2時間半終着の金沢駅に降り立った時には既に午後5時。 駅ナカにあるホテルにチェックインを済ませ駅周辺をぶらつき、不意に 美容室の看板が目に付きドアを開けてた。 「どうしますか、揃えるぐらいにしておきますか?」 「せっかくだからバッサリ切って貰おうかしら」 「イメチェンですか?」 「そうね。イメチェン、いいわね」 肩甲骨あたりまで伸ばし、後ろでまとめた髪は、顎下の長さに揃えたショートボブになった。 軽くスッキリした髪型は、意外なほど自分に似合っていて顔を明るく見せていた。 「どうですか?」 鏡を当てながら聞かれた。 「凄く素敵になったわ、ありがとう」 髪を切り落としただけでこんなにも気持ちが軽い。 新しい私に出会った気がした。
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