渇望の夏

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昼食を取った後、美術館へ向かう。 金沢近代美術館の建物が芝生の先に見えた。その芝生の上にも不思議な金属のオブジェが展示されている。 夏の日差しも強く、額に手をかざし、首筋に伝う汗を拭いながら建物まで急ぎ足で歩く。 正面玄関を抜けてガラスで囲われた屋外展示を見ると、そこには、ゆらゆらと水を湛えたプールがあった。 何故、こんなところにプールがあるのだろう。不思議に思い近づいて行くと「スイミングプール」という名前のアート展示物だった。 プールの底に人影が映る。人影が手を振っていたので思わずつられて振り返す。 水底の人影は、ゆらゆらと揺れる水面のせいで顔は見えないが、雰囲気から男性に違いない。白いシャツも見える。 人影が無邪気に大きく手を振る。大きく手を振り返した。 ただ、それだけのことなのに笑みがこぼれた。 プールの底からの風景を見てみたくなり、底へ続く通路を歩く。 通路の先に青色がぽっかりと口を開けている空間があり、覗き込むと白いシャツを着た男性が立っていた。 目が合うと男性は「こんにちは、良く会いますね」っと、声を掛けてきた。 さっき、石垣の所で会った人だ。
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