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流るる星
輝き続ける星星が流れるさまはとても美しい。引かれるその線は儚くすぐ消えてしまう。
彼女と僕はそれが好きだった。星は心を癒やし僕ら二人にも線を繋いだ。
付き合ってから四年が経って僕らは結婚することにした。
それも星が降る夜に婚約だなんて…少しロマンチスト過ぎたかな?と不安になったが、そこでも彼女と僕は星に線を引いてもらった。
「子供が生まれたら名前は星にちなんだものにしよう」
そう言うと彼女は嬉しそうに頷いた。
子供が出来たと知った時は凄く幸せだった。早く僕らの前に出てくれないかと願ったものだ。
仕事中、僕の携帯がさらなる幸せを知らせてくれた。子供が生まれそうだと。
車を走らせその場に急行する。赤信号なんて無視したいほどの焦燥感に襲われるが、この信号を過ぎたらすぐ病院だ、と言う僕の理性がそれを抑え込む。
赤から青になったので僕はアクセルを踏んだ。
走馬燈のように記憶が流れるというのはどうやら都市伝説のようだ。
人生を想起するのはほんの一瞬で、まるで流星だった。この人生も流星のように短く一瞬で儚いものだった。
大きな鉄の塊が僕の車へ突っ込み、そこで僕の人生は幕を下ろしてしまった。
だが目の前には可愛い赤ちゃんが居る。どうやら僕は幽霊になってしまったようで、自分の葬儀にも参列した。
泣いてる彼女に言葉をかけようともそれは届かない、肩に手を置いたり泣いている背中を擦ろうとも、それは届かない。彼女の体温すら忘れてしまいそうだ。
子供の名前は流星というらしい。元気な男の子だ。
それから五年間僕は彼女たちを見ていた。見守っていた。流星が五歳になった時に彼女は流星を連れ、いつも僕と一緒に星を見ていた、あの丘へと向かっていた。
空を見て思った。そうか今日は水瓶座流星群なのか。僕は水瓶座だったから毎年恒例になってたなと思い返していた。
「流星…お父さんねお星さま大好きだったんだよ…」
「おほしさまだいすきだから…おほしさまになっちゃったの?」
彼女は流星の子供ならではの稚拙な質問に頬を濡らしながら頷いていた。
僕は触れることが叶わずともその震える肩に手を置いた。
でも…叶うなら今だけでも触れたい。彼女に僕のことは忘れても良いから幸せになってと伝えたい。流星にも話しかけたい。涙なんて出ないはずなのに、今にも僕の涙腺は崩壊しそうだった。
「たっちゃん?」
「ひかり…」
彼女は僕の名前を呼んでいた。僕も可笑しいことに彼女の名前を呼んでいた。その声はよく通って彼女にも聞こえているようだった。
彼女の体温…感触全て伝わってくる。声もしっかり届いている。だったら伝えることは伝えようと僕は思って口を開いた。
「ひかり…ずっと見守ってた…僕は星になっちゃったから…君は幸せになって…流星。こんなお父さんだけど…ごめんな…ずっと見守ってる。だからお父さん…」
その先を言おうとするが、声は途切れ相手に届いてないと悟った。声をもう一度出したかったがそれも叶わないらしい。
光が僕を包んでいき今までの身体が消えていく。
僕はその場でなんとか伝えようと口をパクパクと開いた。
だから…お父さんに会いたい時は星降る夜に呼んでよ。だって僕は君たちの呼ばふ星だから…
それだけを言いたかったのだが僕は完全に星になってしまった。
ここからでも聞こえる。
毎年僕を呼ぶ声が…だからちゃんと聞こえてるんだって、僕は線を引いて毎年彼女たちに知らせる。
星降る夜に。
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