14人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
夢はそこまでだった。ラルフがまどろみから目覚めたのだ。
「やはり、夢か」
夢とわかっていた。それでも夢の中にいたかった。竜たちと共にいられるのなら、たとえ喰われても本望だ。ラルフはそれほどに、竜に恋い焦がれていた。
「うう、体が痛い。歳をとると、こうも体の節々が痛くなるものなのか」
ラルフは世に名高い魔法士であり、高名な学者だった。専門は竜学。
かつて存在していたといわれる竜を研究する学問である。しかし、名を馳せたのは昔のこと。老いた今となっては遠い世界の話に思える。
「結局、竜の姿を見ることは叶わなかったな」
竜ははるか昔に滅亡したといわれている。化石となった骨は見つかるので、
存在していたのは間違いと思われるが、生きた姿を見たものは誰もいない。
ラルフは竜を復活させようと努力してきた。どれだけ研究を重ねても、
魔法で作り出そうとしても、無理だった。竜の姿を保つことができないのである。
「夢に出てきた竜たちを、表現することができたら」
机の上に無造作に置かれた紙を掴むと、ゆっくりと折り始めた。それはリハビリに良いといわれた紙人形作りである。ラルフは人形でなく、竜を折ろうとしていた。それもまた簡単なことではなかった。まして老いたラルフには、指の動きもままならず、一向に形にならない。
「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ」
息を乱しながら、必死に折っていく。
「で、できた」
よれよれではあったが、なんとか竜の形になった。
「一匹ではかわいそうだな。仲間を作ってやらねば」
ラルフは疲れをふり切るように、また折り始めた。体はとうに悲鳴をあげていたが、竜を折ることをやめられない。
「さぁ、できたぞ」
それは紙の竜の群れであった。
最初のコメントを投稿しよう!