紙の竜

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 夢はそこまでだった。ラルフがまどろみから目覚めたのだ。 「やはり、夢か」  夢とわかっていた。それでも夢の中にいたかった。竜たちと共にいられるのなら、たとえ喰われても本望だ。ラルフはそれほどに、竜に恋い焦がれていた。 「うう、体が痛い。歳をとると、こうも体の節々が痛くなるものなのか」  ラルフは世に名高い魔法士であり、高名な学者だった。専門は竜学。  かつて存在していたといわれる竜を研究する学問である。しかし、名を()せたのは昔のこと。老いた今となっては遠い世界の話に思える。 「結局、竜の姿を見ることは叶わなかったな」  竜ははるか昔に滅亡したといわれている。化石となった骨は見つかるので、 存在していたのは間違いと思われるが、生きた姿を見たものは誰もいない。  ラルフは竜を復活させようと努力してきた。どれだけ研究を重ねても、 魔法で作り出そうとしても、無理だった。竜の姿を保つことができないのである。 「夢に出てきた竜たちを、表現することができたら」  机の上に無造作(むぞうさ)に置かれた紙を掴むと、ゆっくりと折り始めた。それはリハビリに良いといわれた紙人形作りである。ラルフは人形でなく、竜を折ろうとしていた。それもまた簡単なことではなかった。まして老いたラルフには、指の動きもままならず、一向に形にならない。 「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ」  息を乱しながら、必死に折っていく。 「で、できた」  よれよれではあったが、なんとか竜の形になった。 「一匹ではかわいそうだな。仲間を作ってやらねば」  ラルフは疲れをふり切るように、また折り始めた。体はとうに悲鳴をあげていたが、竜を折ることをやめられない。 「さぁ、できたぞ」  それは紙の竜の群れであった。
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