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終章
「佐藤さん、学校の階段って3階まで上がるのに何段あるか知ってる?」
昇降口へ歩を進めている時に鈴野さんが問いかけた。
「えー、知らないな……何段?」
「40段よ。1階上がるのに20段なの。きれいな数字になるのよ」
「それがどうしたの?」
鈴野さんの意図が分からず、私は首を傾げた。
「つまりね、一歩一歩、進んでいけば、要所要所に踊り場みたいな休憩所があるの。そして、登り切った時に気づくの。自分の一歩は無駄じゃなかったって。だから、登っている間は後ろなんて見ないで前に進むの」
鈴野さんはニコっと笑っていた。
そうか、今は頑張り時なんだ。今、頑張らなきゃ踊り場はこないんだね!
鈴野さんの比喩は独特で目新しくて、一緒にいて楽しかった。自分の立場とか存在する意味とか考える隙もないくらいに。
私と鈴野さんは互いの傘を交換した。
私は鈴野さんの番傘を。
鈴野さんは私のビニール傘を。
互いに似合わないものをさし、しかし互いに満足した表情で帰った。
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