序章

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 私の祖父は所謂、亭主関白。  祖父の方針は絶対、祖父が我が家のルールであり、中心なの。  幼い頃は、そういうものだと思っていたわ。現状のおかしさを疑う気持ちや反発心なんて全くなかったもの。  高校生になってからよ、些細なことに違和感を感じるようになったのは。  例えば、学校から帰った後。  どんなに疲れていても、怒っていても、祖父母にはそんな素振りを見せてはいけない。  誰に教え込まれた訳でもないわ。ただ、心のどこかで、祖父母は家族だけど他人だから、猫を被って接しなきゃダメだって思っているの。  些細な文句、不満を彼らにぶつけたら、きっと何かが壊れてしまう。今の表面上の穏やかさを守らなければならないって。  私たちは、家族を選べない。  生まれるところ、育つ環境、その全てに対して無力なの。  不満があっても、その環境を作り出した人にとっては大切な場所で、自分の一存で破壊できるものではないわ。 『理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ』  私はね、授業で『山月記』をやった時に、この言葉に惹き付けられたの。  どうして周囲の人は家に帰ったら、楽になれるのに、私だけが家でも外でも気を張らないとならないのって、ずっと思ってた。  どうして? どうして? 何度、理由を考えてみても、生まれたところが悪かったとしか言えない。  家族がいるだけで幸せ、普通に生活できることが幸せ。だから、私の悩みはちっぽけでどうしようもなく、身勝手。  自分でも分かっているのよ、多くを望みすぎているって。  でもね、この世には核家族で自由気ままな生活を送れる人もいる。  どうして、私が同居しなければならないの? 私じゃないとダメな理由なんてないじゃないって。  きっと、こんな悩みは経験のある人にしか、分からない。誰でも理解できることじゃない。
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