序章

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 私は鈴野さんの語る心に秘めた思いに聞き入っていた。  ゲコゲコとカエルが鳴き、ザァーと先ほどよりも強い雨足が地面を打つ。  鈴野さんは上気して赤く染まった頬に手を当てて続けて言う。  でも、理解されないからといって、自分の中に不平不満を閉じ込めておくのは精神的によく無いわね。  誰かに聞いて欲しい、大変だねって一言の肯定が欲しい、そう思うの。  簡単に分かって欲しくないくせに、都合のいい話よね。  佐藤さんはこう思うかもしれないわね。  同居の何がそこまで嫌なんだって。我慢しているのは私の勝手でしょってね。  でもね、毎日、毎日、他人と生活するって想像してみて。  きっと、ストレスがたまるでしょうね。自分の好きな時間に入浴できない、騒げない、馬鹿な一面を見せてはいけないって。  私にとっては、それが日常なの。  自由に生きられる人、自由に生きられない人。  世界規模で見れば、私は前者ね。  でもね、そんな綺麗事を並べられるのは外野だけよ。当事者じゃないから言えることよ。
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