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放課後は、祖父母の神社で巫女のアルバイトをして手伝うのが日課になっていた。袴を着る機会などあまりないので、貴重な経験だ。
そういえば、ここに来てからお賽銭を一度もしていない。流石にバチが当たると思い、持っていた箒を立て掛けて財布を取りにいく。幸運なことに小銭は豊富にある方だった。
小銭を片手に握りしめ、賽銭箱へ歩く。
神社に訪れる人々は、ご縁があるようにと五円玉を放り投げる。
だから、私も五円玉を投げる。
神様なんてこの世にいない。
神を信じるなんて人間は、何かの怪しい宗教信者なんじゃないか。
それでも、神様でもいいから願いが叶うのなら……。
何に縛られることなく、自由になりたい。家に帰りたくない、生きているのが苦しい 、何処か誰も知らない世界で暮らしたい。毎日、胸が痛むのが辛い。
頬に一筋の涙がつたう。
「その願い叶える代わりに、結婚してくれない?」
えっ、と口から声が漏れた。
初対面相手に結婚してくれなんて言葉
絶対おかしい。結婚詐欺かなんかだ。
「……というか名前も知らない方と結婚するのは、ちょっと……。」
「私、まだ十七歳ですし……。」
きっと、上手く断れば諦めてくれるだろう。
「僕は、神業師の海里というんだよろしく。神様なんだ僕」
彼は、一歩も引き下がろうとせず、順番に一つずつ答えた。
「それなら心配ないよ、僕は十九歳で君は十七歳だし、ちなみに僕が住んでいる所では結婚に年齢制限がないんだ。」
私の年齢の他に何を知っているのだろう、この人は。
大体、結婚するのに法律は要らないみたいな言い方じゃないか。
「それでも結婚は、ちょっと……、好きな人と真剣に決めてするものじゃないですか。」
本当に神かどうかわからない正体不明のこの人と一緒になるなんて嫌。
「それなら、僕を好きになればいい。そうだろう?そしたら、お互いの願いも叶う。」
目の前に突如として現れた、神様だと名乗る青年。
その姿は意外にも整った顔立ちで、普通の人間にしか見えなかった。
ずっと楽器ケースを握り締めていた。その手には、跡がくっきりとついていた。
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