19-2

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「わし、なにしとったんや?」と、前後不覚の(てい)で、目の前の汚物の池に困惑した。「だれや? こんなところでゲロを吐いたんわ?」  監督は立ちあがると、うずたかく積まれたダンボールにもたれかかった。――と、いちばん上の段ボールからプラスチックのケースが落ちてきて、監督の頭頂部を直撃した。 「痛っ!」監督は悲鳴をあげた。「なにすんねん!」  落下物はパタリと床に落ちた。監督は顔をしかめ、頭をさすりながら落ちてきた物を手にとった。  にわかに相好がくずれた。  細筒監督の手にはビニールパックで包装してある新品のDVDのパッケージがあった。 <老舗旅館の若女将・淫らなおもてなしサービス> 主演 黒木樹。  と、銘打ったタイトルに、和装を裸肌(はだ)かしているセクシー女優の――パッケージ。 「ああ……コイツのおかげで……」  監督は旧友と邂逅するように”黒木樹”の姿を見ると、苦笑いした。「わしは破産したんやったな」  このDVD。まったく売れヘんかったけど。”黒木樹”は、ホンマええ仕事をしてくれた。あんまりええ仕事やったんで、コイツの編集作業――それは、困難を極めたが――をしながら、雀躍(こおど)りしたくらいやった。と監督は、このAV作品に愛と憎しみの両方の感情を抱きながら、机の上に置いてあった煙草とライターを見つけ、これ幸いと手にとった。
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