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25-3
権藤は気持ちのわるい物を手に持ってしまったかのように、腕を伸ばしてできるだけスマホを遠ざけると、恐ごわと三下に手渡した。三下は嫌な顔でうけとった。
「”ここはどこ?” ”わたしはだれ?”」権藤は首をかしげた。「”エリコちゃん”と、”目を覚ました”……けっこう流暢な日本語だったな?」
「いま、なんと言いました!?」と、細筒監督は身を乗りだしていた。
「だから! エリコが目を覚ましたって、外人さんが言ってたと言ったろうが!」
「ホンマでっか……」監督は目頭がじんと熱くなった。こころの底から安堵したし、嬉しかった。いままでの人生で、人の無事をきいてこんなに安心したことはなかった。よかった。ホンマによかった。エリコちゃんも無事生きかえったんやな。
「てめえ、だれに連絡とってんだよ?」三下は言った。「外人さんと話すことがあるのかよ?」
「ま、まあね。なんと言っても、わしは映画監督ですから、海外にも知り合いがようけいてますんやわ」と監督は言った。
「ケッ!」権藤は唾を吐いた。
監督は権藤が言ったエリコの無事の一報の余韻を味わっていた。外人に知り合いはおらんわい。電話に出たのは、おそらく大金持金太郎や。エリコちゃんが、金太郎は英語が堪能や言うてたからなあ。権藤は金太郎を外国人と勘ちがいしたんやな。そやけど、ホンマよかった。このさい金のことはどうでもええやないか。エリコちゃんが無事に生きかえったということが、なによりも嬉しいことやがな。監督はおもった。――彼女、これからしばらく入院やろな……。このドタバタの騒動がおわったら、必ずエリコちゃんに会いにお見舞いにいこう。エリコちゃんの無事な姿をこの目で見てたしかめるんや……カワイイパジャマ姿で、わしを出迎えてくれるかもしれんしなぁ……そやけど、入院先がわからへんわ。エリコちゃんに電話掛けて、入院先を訊ねなアカンな。――あ? そやけど、わしの電話に出てくれるやろか?
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