13人が本棚に入れています
本棚に追加
26-1
「細筒、やたらとこのI・Kという奴と連絡をとりあっているじゃねえかよ?」三下がまた監督のスマホをいじっていた。「こいつはだれだよ? また、外人さんじゃねえだろうな?」と、監督の顔の前にスマホの画面をつきつけた。
「I・K……? イツキ・クロキですけど」と監督は鼻から息を抜くような声で言った。
「なんだよ? イツキ・クロキって……」と三下が言いにくそうに言って、片眉を上げた。「いつき・くろき?」
「く、く、く、黒木樹!?」と、権藤の声が裏がえった。「お、おまえ! 黒木樹の電話番号をしってるのか?」
監督と三下は、権藤の奇声に身をのけ反って驚いた。
「あたりまでっしゃろ」監督は言った。「監督は女優の連絡先くらいしってまっせ」
権藤が三下の手から奪うようにスマホをとった。「黒木樹の電話番号……」
権藤はスマホの画面を見ていた。三下はそんなアニキをほっといて、なにか考えるふうにあごに手を添えていた。
監督はこの権藤の様子を怪訝におもって見ていた。――権藤はまばたきもせず、スマホの画面を食い入るように見つめている。監督は眉をひそめた。――権藤は口もとに手をやったり、画面に人差し指を伸ばしてたり、ひっこめたりしている。なんや? このおどおどしとる姿は? ――権藤の様子はまるで、片思いの相手に電話しようか、しまいかと迷っているうぶな男の子の姿そのものだった。……まてよ。と、監督は考えた。権藤がやたら黒木樹、黒木樹と言っとったなあ? そういえば、権藤は彼女にエライご執心やったわ――そや! と監督はひらめいた。権藤が黒木樹に気をとられとる隙に逃げたらええんとちゃうか? 黒木樹に電話を掛けさせて、もたくさしゃべっとるあいだに「ちょっと、コンビニまでいってきまっさ」と、さりげなく言うて、そのまま逃げたらええんとちゃうか。
最初のコメントを投稿しよう!