高原鉄道（中）

２６－３

　三下の頬に権藤の張り手が飛んでいた。「てめえ！　黒木樹を脅すだとう！　もういっぺん言ったら――」
「痛いっ！」三下が頬を押さえて言った。「アニキィ！　もう殴ってるじゃないですか！　だって、そうするしかないじゃないですか！」
　権藤はさらに往復ビンタを発動する。
　バッチィーン！　バチッ、バチッ、バチッバチッバチッバチーッ！
「痛い！　痛い！　痛い！　アニキやめてください！」三下は言った。「もっと現実を直視してくだせえよぉ！」
　権藤は三下の訴えに、せっかんでもって応えていた。まるで、親の仇といわんばかりに、容赦のない仕打ちだった。
「あんたら？　ホンマにヤクザでっか？」監督は言った。どうみても、権藤と三下がどつき漫才をしているようにしか見えなかった。
「ヤクザをなめるんじゃねえ！」三下は権藤の張り手から逃れる――アニキはそれでも腕を振りまわしてきた――と、監督にむかって言って、真っ赤な顔をして目玉をひん剥いている権藤にむきなおった。「なんだったら、借金の代わりに黒木樹のカラダでかえしてもらったらいいじゃないですかい……意味わかります？」
　権藤が三下の胸倉を掴んで、げんこつを振りあげた。「てめえ！　また、彼女をそんなふうに！　――黒木樹のカラダ(﹅﹅﹅)だとう……？」
　権藤の振りあげた拳が下がった。権藤が呆けた面で三下を見た。三下は顔の前で覆っていた両手をおもむろに降ろすと、極道然とした顔でいた。
「……そうか」
　舎弟の悪人面を見て、権藤の顔が傾き、ヤクザという種族の顔にかわっていった。