26-5

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 ――権藤の脳内である場景があらわれる。  権藤は車に乗って夜道を走行していた。市の中心部からどんどん遠ざかって、都市部へのアクセスに若干難があるベッドタウンに至る湖畔に沿った国道は、夜間は長距離便の荷物を輸送するトラック街道と化していた。権藤の車は前方に視界をさえぎる壁のようなアルミボディーの荷箱の扉と、後方から高い位置で照射してくるトラックのヘッドライトをルームミラーにうけて、その車列にまぎれていた。  反対側車線のむこう側、湖畔に不自然ににぎやかな一画があらわれた。権藤は素早くウインカーを出すと、対向車の途切れたタイミングを見計らい、国道を横切った。じゅうぶんな余裕で対向車の前を横切るのだが、なぜか、対向車はすれちがい際にクラクションを鳴らしてゆく。冷やかしなのか、妬みなのか、それとも、女房とケンカして機嫌がわるかったのか。 ”金色の(ゴールデン)”を意とする(ゲート)をくぐり抜けた。その内側は、昼間は見れたものではないが、夜になると豪華絢爛な姿に一変する古めかしい建物が乱立するところだった。権藤はその建物群の間の私道を、車を低速にして転がしていった。  途中、けばけばしい建物の駐車スペースの端っこにある、ほったて小屋の前で、スツールパイプ椅子にすわっていた男が、権藤の車のヘッドライトを浴びて浮かびあがった。厳めしい面の男が椅子から腰を上げ、敷地内に誘導する素振りをしながら声を掛けてくる。 「はい。コッチ、コッチーー」  運転席の窓を開け、車内の中から、目的地と予約をしてある旨を告げると、男はそれ以上ひき止めはせず、あっさりとひきさがっていく。権藤はそのまま歓楽街の奥地へと車を進ませた。  なにかがいかがわしい外観の洋館があらわれ、車を敷地に乗り入れる。後付けで設置したのは間違いないテント屋根の車寄せに乗りつけると、降車した。あらかじめ権藤の来訪を予知していたかのようにボーイ風の男がいつの間にかあらわれている。権藤はその人物に車を預け、なにかがいかがわしい洋館の中に入ってゆく。  オペラ座のクロークのような受付カウンターに、まずは立ち寄る。カウンター中の男は、相好をくずすことなく、丁寧な歓迎の言葉を声音を低くして言う。権藤は財布から60kを抜きだし、皮革のカルトンに置いた。引き換えに共栄プラスチック製の番号札をもらった。  框を上がるとスリッパにはきかえて、応接セットの展示場のようなところに案内された。白のワイシャツに、蝶ネクタイの身なりの男があらわれた。男はひざをつき、熱いおしぼりを広げて権藤に差しだしてくる。その際、メニューを提示せずに、飲み物はなにがいいかと訊ねてくる。権藤はおしぼりで顔を拭いながら、「……アイスで」とひと言、言い伝える。ワイシャツに蝶ネクタイの男はうなずき、去り際に、権藤の吸っている煙草、矢をつがえた弓のマークの小箱を、ひと箱テーブルの上に置いていく。権藤は懐から封の開いたショッポ(ショートホープ)をとりだすと、あたらしいほうの小箱は、ありがたく、そのまま懐に入れた。  ――シュボッ。  トレドのガラス灰皿の中にあったライターを使い、いっぷくする。そのあいだ、とくになにかを考えることはない。いま、紫煙をくゆらせているあいだは、人生の、つかのまの休息時間なのだ。
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