26-8

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 権藤の顔の前に湯煙が漂う。そして奇妙な音。なにかが、なめらかに滑る音と、絞るような奇怪な音。 ――ジュボッ! ジュボッ!   権藤は音のするほうを見た。お湯の溜まった湯船の横の洗い場で、女が男の体の上を滑っていた。マットの上で黒木樹の裸体が透明なヌルヌルの液体を体に(まと)い、体じゅうを照からせて、あられもない格好で男に奉仕(サービス)していた。権藤は呆気にとられて、黒木樹に声を掛ける。 「どうして? あなたが、そんなことを……」  黒木樹は言った。「それは権藤さん。あなたがわたしをここに売ったからです」  彼女の顔にはあの困ったような、恥じらったような表情は微塵にもなかった。とことん冷めきった無表情だった。 「そ、そんな、おれがあんたをソープの湯に沈めたと言うのか?」 「――そうよ」と黒木樹はどうということのない顔で言う。「それで、そんなにもたくさんのお金を手に入れたじゃない」  権藤はハッとして自分の右手と左手を見る。握りきれないほどの札束を持つ手に、唖然とする。――権藤はかぶりを振った。  場景はかわり、黒木樹と男がベッドの上にいる。権藤はそこを正視する。男が彼女のうしろから背中とえくぼをつくったケツを見せながらうなり声をあげている。黒木樹は手とひざをついて四つん這いの姿で向こうをむいている。和装ではない、安っぽいネグリジェの格好でだ。わずかに彼女の頬の側面と鼻のさきっぽが、垂らした黒髪の間から垣間見れている。
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