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26-10
場景はかわり、権藤はベッドの上で裸になっていた。鏡張りの天井に自分の顔が映っている。その間に黒い影が割りこんできた。黒木樹だった。彼女が権藤の体の上によじ登り、そこで踊りはじめた。彼女は無表情で、顔を上に背け、虚ろな目で宙を見つめ、上下に動いている。
『これでいいのか?』
権藤は黒木樹の顔を見上げる。彼女はあの憧れの表情ではなくて、事務的とおもわせる顔、こころを閉ざしたかのような相好で、権藤の体の上で揺れているだけだった。
「――あんさんが、いけなかったんでっせ」
細筒監督の声がした。権藤は声がしたほうに首を倒す。湯船にプカプカと浮かぶ物があった。眼鏡を掛けた顔が海に浮かぶ浮標のように、監督の生首と生花の花びらがともにたゆたっていた。
「あんさんが、黒木樹をこんなにしてしもうたんや……」
「お、おまえに言われる筋合いはねえ!」権藤は言った。「そもそも、おまえが金をかえさないからこういことになったんだ!」
細筒監督の生首が湯気のなかから言う。「そやけど、黒木樹をソープに売るやなんて、あんさんはホンマ冷酷なおひとですな。あんさんの黒木樹への想いは、いったいどこにいってしもたんでしょうな?」
細筒監督の生首はそう言うと、蔑んだ目をして、花びらとともに湯船の中に沈んでいった。
「さあ、おきゃくさん! ここで順番になって、待っていてくださいな」
と、三下の声がする。見ると、プレイルームの入口に腰に黄色いバスタオルを巻いた男どもが順番に並んで列をなしていた。三下がその群集にむかって、はみ出さないように、割りこまないようにと、交通整理をしている。どいつもこいつも頭にクソをつけていいぐらいのオヤジどもだった。腹がせり出たり、頭が禿げあがったり、脚が棒きれのように細かったりと、怠惰な生活習慣で獲得した体を晒していやがる。――が、タオルの中のいちもつだけは、生意気にも隆りゅうと勃ったてていやがる。
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