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27-1
「だったら、どうやって五百万のもの金を用意するんです? このままじゃ、おれたち組にもどれないんですぜ」三下が権藤の腕にしがみつき、揺さぶって訴えた。「おれたち、ヤクザを首になってしまうんですよ。これからさき、世間の荒波に呑まれて、どうやって生きていったらいいんですかい?」
「だからって、黒木樹を……嗚呼、おれは、いったいどうしたらいいんだぁ!」
権藤は頭を抱えた。三下は頼りないアニキをはげまそうと頑張っていた。が、――やがて、ふたりはちから尽きたようにうなだれると、示しあわせたようにふたりして監督のほうを見て大きなため息をつき、――そして、とうとうふたりとも途方に暮れた。監督は連中のこの態度にいささか気分をわるくした。
こいつらの事情といまの状況があらかたわかったわ。わしが借りた五百万がこいつらの手にもどったら、いや、手に入る約束ができたらええんとちゃうかな? 監督はスチール机の上の編集機を一瞥した。とりあえず、その場しのぎかもしれんけど、なんとかなるやろう。まんざらウソでもないしな。それに……翔馬くんと愛香ちゃんのことがあるがな、時間もあんまりないはずや。――ここらでひとつ、芝居を打つとするかいな。
「まあまあ、権藤はん」やれやれというように監督はかぶりを振った。「それには、及びませんで。四角いもんもまぁるくおさまりまっしゃろう」
「文無しがなにを言いやがる!」と三下が言い放った。
監督はどうということはないという顔をした。が、組長に有り金ぜんぶ差しだし、全財産を失って、細筒監督と同じような立場でいる権藤は、グサリと傷ついたような顔になった。
「さて、権藤はん……あんさん、黒木樹のことが好きなんですな?」まずは、権藤の気持ちをほぐしてやらなアカンやろう。と監督は考えた。
権藤は虚をつかれた顔をしたあと、顔を伏せ、コクンとうなずいた。
「アニキ? それは、ほんとうですか?」三下がアニキの顔をのぞき込んだ。「ただのAV女優なのに?」
「だまらっしゃい!」監督が三下を叱りつけた。
「権藤はんの気持ちはようわかりました。あんた黒木樹に惚れましたんやろ。純粋に。AV観て、彼女がアヘアヘ言うとる姿を観て……まあ、きっかけは、なんでもよろしい」
監督はどこか遠いところを見るような顔になった。
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