27-2

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「人間、どこで恋に落ちるか、わかりまへんからな――」  監督は”沢尻エリコ”の姿を瞼の裏に想いうかべた。あの”死者の列車”のなかで、髪をかきあげて、気どったふうにしてわしの面接をうけた”沢尻エリコ”。ずけずけとわしの回想シーンに入りこんできて、話の内容につっこみをいれてきた”沢尻エリコ”。関西人やと正体がバレて、体じゅうから情念を解き放ち、恨み節を唱える”沢尻エリコ”。感情を臆することことなく表に出す彼女は、とても素人とはおもえないような情熱的な女。女優むきや。嗚呼(ああ)、ひさびさにええ女と出会ったわ。”沢尻エリコ”あの女の姿をキャメラのなかにおさめてみたいなあ。――これは? わしもエリコちゃんに惚れとるということかな? と、監督は自分の気持ちがすっかりとほぐれたこころ持ちだった。 「ほんとに好きになった女性(ひと)を大事にしたいという想い。かけがえのないひとを失ってはいけない、守ってやると言うた、あんさんの心意気。権藤はん、あんさんは夢追い魚”オイカワ”を追いもとめる夢釣り人みたいなお方ですなあ」 「オイカワ?」権藤と三下は、まったく意味がわからず困惑した顔になった。  監督は眼鏡の奥を開いて、<細筒企画>と書かれた紙が張ってある、いまは開けひろげられた窓から東京の空を眺めた。  高原列車の車窓から、ふたつの飛行機が舞いあがった。  ふたつの紙飛行機は羽ばたく鳥のように、仲のいいつがいのように、距離を寄せたり離したりしながら、まるで遠くの山の頂を目指すように飛行していった。翔馬くんと愛香ちゃんが、列車の車窓から身を乗りだして空を見上げていたわ。
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