9人が本棚に入れています
本棚に追加
蒸し暑い夏の夜だった。
JR相生駅のホームで帰りの電車を待ちながら、
わたしは胸にざわつく気持ちを抱えてぼんやり佇んでいた。
電光板の表示では、
次の電車の到着時刻は「22時48分」。
(5分後か……)
時計を見やり、
そう思ったのはずいぶん前で。
体感的には5分どころか、
もう15分は経った気がする……。
(はて……)
と再び確認すると、
腕時計の針は止まっていた。
(……クォーツが故障するはずがない)
昭和生まれの信仰で、反射的にそう思ってみたが、現にそうなら仕方ない。
それより電車の遅延について、何も通知が出ていないことの方が奇妙に感じられた。
(駅員を探して聞いてみるか……)
だが、この場所を離れたことで、運悪く終電を逃したら?
残業疲れの脚で踏んばり、駅前でタクシーを待ち続ける気力は湧いてこなかった。
誰かに聞いてみようにも、
ホームに他に人影はなく。
黄ばんだ水銀灯の明かりが、
狭い屋根の下を写真のようにチラつきもせず照らしている。
また5分、経つ頃に。
わたしはその違和感に気づいた。
最初のコメントを投稿しよう!