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(おかしい……辺りが静かすぎる……)
夜中とはいえ、町中だ。
往来を走る車の音や、
踏切の音、遠いサイレン。
それらがまるで聞こえなかった。
風音も、虫の音も。
ここに来るまでは確かにしていた
微かな自然のざわめきさえも、
ぴたりと止んで、「無音」だなんて。
(……そんなことって、あるのだろうか?)
えも言われない不安を感じ、
わたしはハンカチで顔を拭いた。
……考えられる理由はひとつ。
嫌に現実味はあるものの、
おそらく自分は疲労から、
意図せず「夢」を見ているようだ……。
(そうだ、そうにちがいない……)
(悪い夢なら覚めてくれ……)
それがわかった途端になぜか、
自分の立っているこのホームが、
暗い世界にぽつりと光る、
「浮島」のように頼りなくなり。
無力感に囚われたわたしは、
その場にしゃがみ込みたくなった。
その時、
とつぜん、前触れもなく。
ホームの一番端の明かりが、
蝋燭のようにふつりと消えた。
「あっ」と声を出すことに夢中で、
わたしは自分の後ろに「誰か」が歩み寄ってきたことに気づかず。
結果的に、二度、驚いた。
——ね、おじさん。どーしたの?
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