9人が本棚に入れています
本棚に追加
あわてて後ろを振り向いて、
飛び出しかけた声を抑えた。
わたしに話しかけてきたのは、
夏服姿の女子高生。
ショートカットの幼い顔に、
いたずらっぽい笑みを浮かべて、
ほっそりとした姿はまるで、
思春期前の少年のよう。
……幽霊でもなんでもなさそうだ。
(しかし、どうしてこんな時間に、駅に若い子がいるのだろう……?)
進学塾の帰りだろうか?
それにしては溌剌としている。
学生カバンも持っていないし、
非行をするタイプにも見えない……。
疑問は次々と湧いてきたが、
ひとつとして聞けそうになかった。
少女はごく当たり前のように、
わたしの前にスイっと立って、
「……おじさん、メガネ、ズレてるよ?」
くいくいと指でジェスチャーをして、
それが直るとにっこりとした。
……年甲斐もなく狼狽えたのは、
「ドキリ」としてしまったせいだった。
もしも自分に娘がいれば、
ちょうど「この子」と同じくらいの年齢になると知りながら。
彼女の姿はわたしの中の、
遠い昔に卒業してきた色々なものをくすぐった。
(『若さ』に心洗われるとは、こんな瞬間を言うのだろう……)
目が覚めたようにハッとして、
「そうだ、たしか、きみと……どこかで……」
だが、わたしの問いに被せて、
ふしぎな少女はさらりと言った。
——ずーっと待ってたって来ないよ?
おじさんの、乗りたい電車。
最初のコメントを投稿しよう!