ホームにて

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あわてて後ろを振り向いて、 飛び出しかけた声を抑えた。 わたしに話しかけてきたのは、 夏服姿の女子高生。 ショートカットの幼い顔に、 いたずらっぽい笑みを浮かべて、 ほっそりとした姿はまるで、 思春期前の少年のよう。 ……幽霊でもなんでもなさそうだ。 (しかし、どうしてこんな時間に、駅に若い子がいるのだろう……?) 進学塾の帰りだろうか? それにしては溌剌(はつらつ)としている。 学生カバンも持っていないし、 非行をするタイプにも見えない……。 疑問は次々と湧いてきたが、 ひとつとして聞けそうになかった。 少女はごく当たり前のように、 わたしの前にスイっと立って、 「……おじさん、メガネ、ズレてるよ?」 くいくいと指でジェスチャーをして、 それが直るとにっこりとした。 ……年甲斐もなく狼狽(うろた)えたのは、 「ドキリ」としてしまったせいだった。 もしも自分に娘がいれば、 ちょうど「この子」と同じくらいの年齢になると知りながら。 彼女の姿はわたしの中の、 遠い昔に卒業してきた色々なものをくすぐった。 (『若さ』に心洗われるとは、こんな瞬間を言うのだろう……) 目が覚めたようにハッとして、 「そうだ、たしか、きみと……どこかで……」 だが、わたしの問いに被せて、 ふしぎな少女はさらりと言った。 ——ずーっと待ってたって来ないよ? おじさんの、乗りたい電車。
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