ホームにて

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ついに直近(まぢか)の照明も消え。 残すはわたしたち二人を照らす頭上のひとつだけとなった。 「おじさん、カッコよかったよ。飛び込んできてくれた時……」 “ばかなことするんじゃない!” 「って、本気で叱ってくれたよね?」 ——わたし、おじさんみたいな人に、もっと早く逢えてたらよかった……。   すべてが終わってしまった後の、清々とした空気の中。 「ではきみも……わたしもすでに……」 かすれた声でつぶやくと、 少女はついと目線を逸らした。 ほら、やっと。 電車が来るよ……。 なるほど。 たしかに言われて見れば、 この闇の中をライトも点けずに走ってくる電車があった。 かなり古い一両編成だ。 丸みを帯びたその車体は、 わたしが子どもの頃によく見た古い型を思い出させた。 ホームに停まった電車のドアが、 目の前で音もなく開かれる。 ぼんやりと浮かぶ暗い座席に乗客たちの姿はなく、 まさに「棺桶に入る気分」とはこういうことを言うのだろう。 (このふしぎに懐かしい電車は、わたしをどこに連れて行くのか……) 「ね、おじさん。平気だよ。これからわたしとおじさんは、いっしょにおんなじところに行くの……」 ぼう然とするわたしに比して、 死を受け容れた少女はやけに、遠足気分で楽しげだった。 ——おじさん、疲れてるんでしょう?  向こうに着くまで寝ててもいいよ。 わたし、膝枕しててあげる♪ うきうきする彼女に手を引かれ、 わたしは電車に乗り込んだ。
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