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プロローグ —美少女たちとの出会い—
今年の春から東京の会社に就職して僕は念願の一人暮らしをはじめました。
僕の生まれ育った場所はそれはそれは辺鄙な田舎でありまして、見渡す限り水田が広がっており、お隣さんの家とは数百メートル程離れていました。
そんな住人少なれど土地広しの地で僕たち一家はとても有名な家族でした。
ええ、まあその理由なんて別に大したことないんですよ。
ただ家族がちょっとばかし多いってだけです。
――じいちゃん、ばあちゃんそれと父母と六人の兄弟の十人家族。ちなみに僕は長男です。
このくらいの家族、東京都民からしてみればそれほど珍しいことでもないですよね?
え? 東京にもこれほどの大家族はいないですって?
またまた御冗談を。
まあ僕の家族の話は後程詳しくお話しするのでいいのです。とりあえず置いておくとしましょう。
そもそも僕の身の上話もこの辺にするとしましょうかね。
—―と、僕は意識を現実へと戻す。
今日はついに一人暮らし初日。
今は入社式やこれから行われる会社での研修の説明を聞き終え、家に帰宅してるところであった。
朝は実家から始発の新幹線に乗りはるばる東京の会社に出社したのだ。
なぜそんな面倒なことを遅刻も許されない大事な日に行ったのかというと理由は簡単で、大学生まで実家で暮らしていたがゆえに一種の癖になってしまった朝母親に起こしてもらわないと起きれないという呪術の類のせいだ。
……はいすみません、ふざけました。
でもしょうがないんですよ、ほんと。生まれてこの方、一人で起きようとしたことがないんですもん!
起こしてもらえるのが当たり前であり、それがいつまでも続くものだと思っていたんですから。
それを、はい今日から一人で起きて会社行ってねって言われても、わかりましたって言えるわけないでしょう? そもそもできるわけないから。
てなわけで今日は実家でいつもの如く母親に起こしてもらってから会社に出社したがために実家からはるばる東京の会社に来たというわけです。はい、めでたしめでたし。
ここでやっと意識を今に戻した時の話に戻れるんだが、要するに長い説明をして何を言いたかったのかというと、正式に一人暮らしをはじめるのが今日からってこと。
そう、誰もいない部屋、誰のものでもない僕ひとりの部屋に帰宅するという記念すべき最初の日。
正直入社式と同じくらいワクワクとドキドキで胸が躍ってます。
ええ、まあ頭の中で誰にともなく自分の身の上話を意気揚々と話すくらいには興奮してますよっ!
そりゃそうもなりますとも。生まれてこの方、一人部屋というものを持ったことがないのですから。
僕の家は十人家族。土地は水田も入れるととても広かったものの家自体は普通サイズの一軒家であったためこうなると子供部屋は自然と一人一部屋持てるはずなく。
僕たち兄弟は男三人、女三人ときれいに分かれていたため男部屋と女部屋に分けられ、弟たちと八畳間の部屋を三人で共有して使っていたのだ。
それも小さい時ならまだしも、僕がこうして一人暮らしをはじめるまでそれが続いたのだ。
ついこの間までは僕が大学生、次男が高校生、三男が小学生とあきらかに三人で八畳間を共有するには狭すぎる状態で生活していた。
兄弟に見られたくないものや見せたくないものの一つや二つ、いや十以上はあるであろう成長期やら思春期を迎える男たち三人を八畳間というとてつもない狭い空間で共有して生活しろというのは教育上もよろしくないと思う。
まあ僕は八畳間の三分割された自分のスペースを上手く駆使してどうにか乗り切っていたわけだが……。詳細はご想像にお任せします。
そのため最愛の兄が家から出て行ってしまうというのにも関わず弟たちは悲しむということは一切せず大いに喜んでましたよ。それはもうすがすがしいほどに。
――部屋が広くなるって喜んでね。
まあ僕は今から六畳間の家に帰るからいいも~んだっ! 弟たちよ、せいぜい八畳間二分割して四畳間程度の仕切りのない共有部屋で満足してろや、ばぁ~か。
あっ。けして弟たちが別れを悲しんでくれないからって自棄になってるんじゃないからね。そこ勘違いしないでね。
そんなことを考えていたら、いつの間に到着していたよ。夢の詰まったワンルームに。
家族と物件を探し悩みに悩みぬいた結果見つけたこの最高の物件。
会社から徒歩十分圏内。都内であるためスーパーやらコンビニは探せば近くにたいていある。
それでいて築年数もそれほど古くなくお値段も良心的で本当にこの家に選んでよかったよ。
どうせならいい物件に住みたいもんな。憧れの一人暮らしだし。
ちなみに僕の部屋は、この二階建てアパートの階段をのぼって一番奥の部屋だ。
僕は扉のカギを鍵穴に慎重に差し込み、まるで数十年開けらることのなかった開かずの金庫を開ける鍵職人のような慎重な手つきでカギを回す。
—―ガチャ。すると小気味良い音が耳朶を打つ。
そしてついに僕はそのドアノブに手をかけ、いざ踏み込まんとばかりに扉を開け……。
あれ? 扉があかないぞ。
—―って、まさか前回大家さんからカギを借りに来た時に家の鍵をかけ忘れてたのか?
確かあの日はもう一度しっかりと内装を確認するために部屋の中に入った記憶は残っている。だけど、気が舞い上がっていたせいで家の鍵をかけたのかどうかの記憶なんて微塵も残ってない。
まあ、幸い引っ越しの荷物は明日配送業者に届けてもらう予定だったから家の中にはとられるものなんてないんだけど。
気を取り直してもう一度カギを差し込んで回すと再びガチャと音が聞こえる。
――今度こそ大丈夫だろう。
僕は一度深く深呼吸をして心を落ち着かせると、勢いのままに扉を開けた。
ハロー我が家。これからよろしく。
「ただいまーっ」
そこに広がるは誰もいない僕だけの空間……ではなく、僕の視界に映ったのはそこにはいるはずのない見覚えのない美少女たちであった。
しかも三人もっ!
えっ⁉ この人たち誰っ!
部屋間違えた? いや、でも確かさっき僕の持っていた鍵で部屋開けたし。
思考はかろうじて働いているものの動きを完全に停止してしまっていた僕に美少女の一人、黒髪ストレートロングの子がこちらに気づき一言。
「どちらさまですか?」
「いや、こっちが聞きたいんですけどッ⁉」
そう反射的にツッコミを入れる僕であった。
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