水面に踊る

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 しばらく伊三六の様子を見ていると、農作業に適した装いに着替えた悠馬がやって来た。 「伊三六様、お手伝いいたします」 「おお、悠馬。ありがとう。さすがに腰に負担が来ていたからな」  伊三六は立ち上がると、腰に手を当てて伸びをする。  二階ではあるが、二人の会話は千咲にも聞こえる。 「まったく、私のことは父のように思えと言っているのに。様付けはないんじゃないか? ……まあいい。じゃあ、向こうのナスの畑の方の草取りを頼むよ。自分で手を付けた分は、自分で終わらせたいんだ」  伊三六は左手の軍手を外し、悠馬の右肩を軽く叩く。悠馬はお任せくださいと言って、伊三六に指示されたナス畑へとたくましい背中を千咲に向けて歩いていく。  不意に上を見上げた伊三六と目が合う。  いたずらを思いついた子どものような笑顔を千咲へと向けると、悠馬に声をかけ、千咲の方を指さす。  伊三六の指す方向を見て、千咲に気付いた悠馬は、他人行儀なお辞儀をする。その視線をすぐに外すとさっそくナス畑の雑草取りを始めた。 「お父さんめ……」  伊三六はどこまで千咲の気持ちを分かっているのか、そして、本気で悠馬と繋ぐつもりがあるのか。千咲には測りかねている。
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