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雲の隙間から強い日が一筋、湖に差し込んだときのものだった。雲のおかげで周囲は薄暗い中、オレンジがかった日差しが、水と言うレンズを通して水中のものを照らし出している。
ドアからノックの音がして、千咲が返事をすると、悠馬が麦茶と醤油せんべい、塩飴を乗せた盆を持って入ってきた。
「お待たせしました。たくさん汗をかいたでしょうから、水分だけではなく塩分も摂ってくださいね」
「私、塩飴の味って結構好きなんですよ。清香さんは?」
「独特な風味でクセになりますよね。私も嫌いではないです」
悠馬が盆を机に置けるようにスペースを作りながら話す。盆を置いた後も、悠馬はすぐに離れることなく立っている。
「どうかしたの?」
「いや、面白い構図で考えているんだなと思って」
悠馬の視線の先にあったのは、千咲がさっと描いた設置方法の図面だった。
「まだこうするって決めたわけじゃないんだけどね」
「四隅を支えるより、吊り下げる方がいいんじゃないか?」
「そう?」
「これ、上の板は水面を独立させるための部分だろう? それなら吊り下げて揺れるようにした方がおもしろいんじゃないか?」
真剣な面持ちで、悠馬は図面を指さしながら説明をする。安定することを第一に考えていた千咲にとって、その提案は目からうろこが落ちるものだった。
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