殻と檻

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「……なるほど! でも、よくこの構図だけでそこまで読めたね」  図面には円とそれを支えるためのスタンドと板、そしてそれを支えるように配置された直線しか描かれていない。  素直に感心して悠馬の方を見ると、精悍な顔つきを柔らかくし、言葉を飲むほどに甘く優しい笑みを浮かべていた。千咲も見たことがない表情だった。 「千咲のこと、たくさん考えてきたから」  鼓膜を震わせたその言葉が脳で処理された瞬間、顔にものすごい勢いで血が上ってきたことを感じた。  朱に染まりきり固まった千咲の顔を見て、悠馬は目を見開く。そして千咲とは対照的に血の気が引いていった。けれど、血の気が引く前に、一瞬首筋と耳が赤くなっていたことを、清香は見逃さなかった。 「……悪い、変な言い方したな」 「う、ううん、大丈夫……」 「じゃあ、望月さん、失礼しますね」  麦茶の入ったグラスを机に置いたときには、一切物音を立てなかった悠馬は、ガタガタとぶつけながら盆を机から取り上げる。  いつも通りを装いながらも、部屋を出るためにドアに向かう足取りは、どこか頼りないものになっていた。
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