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「あのね、SNSで揉まれ続けているから言うけど。『かわいいを商売』にしている作家が、作家の彼氏を紹介したらどうなると思う?」
「…炎上する?」
「炎上で済めばいいけどねー。不買運動まで起きかねないわ」
「さすがにそこまでは」
質の悪い冗談だと思って苦笑したが、電話越しに感じられるのは至極真面目な空気を漂わせた沈黙だった。
「あるのよ、あるの。ひどい言葉を投げつけてくる人はたくさんいるし、今も「あんな人の物買うなんて信じられない」っていう声もあるしね」
「……」
「今までそのおかげで取り潰しになった企画だって、一つや二つじゃないの。今回はそんなことにしたくないから、万全を期したいの。あなたのためって言ったけど、自分のためでもある。だからお願い!」
普段はもう少し間延びした話し方をする宮地だが、今はその影は全くない。これまでの批判に、よほど胸を痛めてきたのだろう。
自分の恥と宮地の願いを皿にのせた天秤は、あっさりと宮地の願いに傾いた。
「分かった。でも、短い時間でお願い」
「そこはどうだろ〜。局次第なところあると思うし、保証はできかねる」
「もう、そこは胸張って任せろって言ってよ!」
「あははっ、ごめ〜ん。とりあえずちゃんと日程が決まったら教えるね。多分ここ二か月以内だとは思う」
少しだけいつもの調子を取り戻した様子の声音に、千咲も軽い気持ちで言葉をかけあう。
取材を受けると言ってもメインは宮地の特集である。数少ない友人の力になるならと思うが、一応清香に相談をしてから明確な返事をすることにした。
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