殻と檻

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「いい機会ですね」 「そうですかね……。すごく恥ずかしいんですけど」  翌日の午前中に電話をかけると、2コール目で清香は電話を取った。簡単に説明をすると、清香はすぐに賛成の意を示した。  宮地の力になりたいという思いに嘘はなかったが、それでも恥ずかしいという気持ちをすぐに消すことはできなかった。 「千咲さんはこの間、といっても1ヶ月くらい前ですね。一度SNSで話題になりましたし、名を知られる頃合いだったんですよ」 「そうでしょうか」 「ええ、きっと。どれくらいの尺がもらえるかは分かりませんが、そのときに披露する作品も考えておくべきでしょうね。一つは前回反響があったもので決まりですが、あと一つくらいあった方がいいかも」  清香の声から、張り切っていることがよく伝わってきた。恥ずかしさや不安は簡単には消えないが、支えてくれる人が増えたことを実感し、千咲の口角は自然と上がった。 「テレビのこと、お詳しいんですね」 「身内にテレビ関係の仕事をしている人がいますからね」 「なるほど。あの、もう一つの作品って、完成したものじゃないといけないでしょうか」 「取り組みを紹介してくれるのであれば、あるいは完成品じゃなくてもいいかもしれませんけど。もしかして、昨日の構図の作品を出すつもりですか?」  語気が強くなった清香に、千咲はたじろいでしまう。責めるような言い方ではないが、対面であれば身を乗り出していそうな雰囲気に押された。
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