殻と檻

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「そういうときは、テーマに立ち返るといいんじゃないかと思います」  答えたのは、伊三六に話を振られた悠馬だった。 「テーマといっても作品そのもののことではなく、その作品を作るにあたって重要視している要素のことです」 「要素?」 「例えば、千咲さんが作品を作るときに意識していることってなんですか?」 「光の取り込み方かな。……ああ、分かった気がする。私の場合は光がテーマ。だから柔らかい光り方をするものを選ぶのが、テーマに立ち返るってことになるんだ」  納得いった様子の千咲の言葉に、悠馬はうなずいて返す。二人のやり取りを伊三六は、にこにこと見守っていた。  アドバイスを受け、柔らかい光り方をする素材としてシーグラスを選んだ。自然に作られた形のため不ぞろいではあるが、また面白いものができる予感で胸が躍った。  案をくれた清香をはじめとして、町工場の社長や悠馬にも助けられながら、取材の前日に作品の球体部分が出来上がった。人に見せられる状態まで持ってこれて、息をついた。自然界のものではないとはいえ海が作ったからか、シーグラスで作った鱗は想像していた以上に水中という設定の空間に合った。 「うん、綺麗ですね……」  取材が来る前に見せた清香が、未完成の作品の前でうっとりとした声を出す。連絡をすると、すぐに千咲の部屋へとやってきた。
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