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「『自然を大事にしたいという思いから、こういった作品を作っています』なんてどうですか? 少しでも印象を良くするに越したことはないですから」
宮地の例を知っているからこそ、清香がこうした提案をしているのだろうと思い至るが、千咲はやるせない気持ちを覚えてしまう。
「水辺だけの話ではありますけど、確かに私の作風を表すにはいいかも」
「でしょう? あとは今回の作品のモチーフについて少し話しましょう」
そう言って台本を持ったまま、球体作品の周りをまた歩き始めた。
「これまでの作品だとほとんど水の中をそのまま切り取ったもので、この間の布から変わる金魚だけが異色って感じでした。でも今回は違う。最初から人工物だけですよね」
口元に手を当てるいつものポーズで、清香はじっと作品を見つめる。千咲もそれにならって近くで観察する。これまでの作品と違うのは、指摘通りで人工物と分かる物を取り入れたことだ。
「どうして人工物を入れたか、という部分を話した方がいいんでしょうか?」
「具体的な話をする必要はないと思いますよ。例えば、新しい表現方法を模索した結果だとか」
「それなら、一つ考えていたことがあります」
千咲は意識して深く息を吸う。
「人の心を映したい」
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