殻と檻

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「認められたいっていう気持ちは努力の源になる。努力することでより良い作品ができる。その作品は人の心を動かし、心動かされた人はあなたを認める。あなただけで完結しない、素敵な循環が生まれるのよ」  祈りに応えるように、千咲の欲しい言葉を、清香はいつも与えてくれる。おべっかではなく、心からの賛辞をささげてくれている。一方的なわだかまりで、その想いに真正面から向き合わない不誠実さを脱ぎ捨てたくなった。  強く握りしめていた手を緩め、千咲は清香に向き直る。 「あのね、清香さん」  喉に声が張り付いたように、次の言葉が出てこない。目の前の清香は悠然と、優しい微笑みをたたえて首をかしげて待っている。  聞いてしまえば、言ってしまえば、今のこの穏やかな関係が終わってしまいそうな不安が、千咲の動悸を早めていく。荒くなりそうな息を必死に整えた。 「私、悠馬さんが好き。清香さんが悠馬さんに迫っているのを聞いてあなたに対しても素直になれなかったの」  目をぐっと閉じて一息に言い切ったのは、清香の反応を見ないで済むというささやかな逃げだった。けれど、その意に反して清香からは何の反応も返ってこない。  おそるおそる目を開けると、理解の追いついていない様子で、きょとんとした清香の顔があった。
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