殻と檻

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「ちょっと待って、私が? 岩屋さんに迫った?」 「え、だって、あなたの目からみた私とか、興味を引くのはって言ってたじゃないですか。それにさっきだって悠馬さんのこと気になってって……」  『清香は悠馬が好き』という答えを導きだすに至った材料を、必死に並べていく千咲を見て、清香はこらえきれなくなった様子で噴き出した。そんな様子の清香に面食らった後、千咲は服の裾を強く握る。 「ごめんなさいね。そんな勘違いさせてしまっていたことにびっくりしたのと、千咲さんがとってもかわいかったのとで、つい、ね」  いまだ抑えきれていない笑いをかみ殺しながら、清香は言う。対する千咲の表情は釈然としないもので、口をへの字に曲げていた。 「私、結婚してるんですよ」 「へ?」 「結婚指輪の代わりに、このブレスレットを買ってもらったんです」  清香が腕をあげる動作に合わせてチャームが揺れた。目の前に来たことで、そのレモンがやや緑がかっていることに気付く。 「多分千咲さんの言う私が迫っていたのって、多分私の作品にアドバイスをくれって岩屋さんに言っていたときじゃないかしら。神園先生の私塾で初めて会った日でしょう?」  予想していなかった回答に、千咲は声を出すことができず、何度も頷くことで反応を返した。それを見て、清香は「やっぱり」と一人で納得している。
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