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心は墓石の下へ
岩屋悠馬は幸せになってはならない。
おっちょこちょいだが常に前向きな母――晴海と、困っている人がいれば見ず知らずの相手でも必ず手を差し伸べる父――和臣。そんな二人のもとに生まれ、悠馬は人のあたたかさを全身で浴びていた。
けれどそんな生活も長くは続かなかった。
幼いながら、悠馬は岩屋家にお金が無いことを感じていた。預けられていた保育園で、周囲の子どもから聞くようなおもちゃを買ってもらったこともなければ、お店で食べるおいしい料理というものにもほとんど縁がなかった。
「ゆうまのいえ、ふるいよな!」
「きたない!」
その言葉は事実で、幼い悠馬は反論することはなく、ただただ受け入れて黙っていた。そうすれば子どもは付け上がって、さらにはやし立てる。
おかしな盛り上がりを見せる子どもの様子を見て、彼らの親がその頭をはたいて叱責し、悠馬に憐みの視線を向けるところまでが、ひとまとまりの日常だった。憐みの感情を理解することこそできなかったが、決していい意味を持った目ではないことだけは、よくわかっていた。
迎えに来た母や父には何も言わなかった。言えば、大好きな両親を困らせることは分かっていた。泣くこともしなかった。両親の疲れ切った顔を知っていたから。そして、自分といるときは笑顔になってくれることも。
もしかしたら、保育園の担任から話はされていたかもしれないが、二人とも鬼籍に入った今となっては確かめる術はない。
悠馬は元々おしゃべりではなかったが、こうした経緯でさらに口数は減り、手のかからないいい子になった。慎ましやかで贅沢は一切できないが、自分を愛してくれる両親と暮らせることがなにより幸せだった。
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