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「その子が落ち着くまで」と家にあげてくれた女性は神園茜と名乗った。その好意に甘え、入ってすぐのスペースに腰を落ち着ける。車など持っていないため、酷使した足が非常に重く感じた。
茜が出してくれた冷たいハーブティーは気持ちを落ち着かせてくれた。慣れない味ではあったが、柔らかい口当たりで飲みやすかった。
「見ず知らずの私たちに良くしてくださって、本当にありがとうございます」
そう言った和臣に対し、茜は可憐な笑顔を向ける。
「小さなお子さんを連れている方を無下にしたら、きっとお腹で聞いているこの子に怒られちゃいますから」
口に含んだハーブティーを噴き出しそうになるのは堪えたものの、身重の女性を働かせてしまった事実に、和臣は血の気が引いていった。まだ目立つほどではないが、ゆったりとしたワンピースに覆われたお腹は、少しだけ大きくなっていた。
「とんだご迷惑を……。本当に申し訳ありません」
「ああ、気になさらないで。あまり動かなさすぎるのも良くないと言い含められていますし」
椅子に座ったまま深々と頭を下げた和臣を見て、茜は慌てて胸の前で両手を振る。そうして視界に入った悠馬の目が、自分の腹部に注がれていることに気付いた。
「こら、あんまりじっと見ては失礼だよ」
「そんなことありませんよ。気になる?」
同時に気付いた和臣は悠馬の背中を優しく叩いて注意したが、茜は気にした様子もなく声をかけた。和臣と茜の顔を交互に見やった悠馬は、おずおずと口を開く。
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