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慟哭に近い声があがった。大人でも声をあげて泣くのかと、頭の隅で考えたとき、一度だけはっきりと言葉が聞こえた。
「死にたくない、死にたくないよ伊三六さん……! 悠馬や千咲ちゃんを残して死ぬのは嫌だ……」
たまらず、悠馬は駆けだした。廊下ですれ違う看護師に注意をされるものの、構うことはできなかった。
ラウンジで一人泣きじゃくっていると、伊三六が迎えに来た。目元が赤くなっている伊三六は、泣きじゃくる悠馬を抱きしめ、何も言わなかった。
伊三六に肩を抱かれて歩くうち、心に浮かんだ考えがあった。
自分が幸せを感じたとき、そばで必ず誰かが不幸になっていなかったか。
ゆえに、悠馬は思うのだ。「岩屋悠馬は幸せになってはならない」。
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