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一枚上手
「……ちっさ」
翔の家に泊まることになって、まずお風呂を借りたら、翔の服が用意されていた。……入るわけないだろ。
脱衣所の扉が開く。噂をすれば翔だ。
「着れたー?」
「俺とお前じゃ身長差どのぐらいあるか分かってるだろ。何、やーいチビって言われたいのか?」
俺はあえてつんつるてんの状態で翔の目の前に立ちはだかって、ニヤリと笑った。
「ええやん」
「は?」
今度は翔がニヤリと笑った。片方だけ口角を上げた。普段は見せない色気で、俺は何も言えなくなる。
「ええやん。……におい。亜弥のにおい。亜弥のにおい、俺の服に付けてーや」
「……っ」
俺は何も返せなかった。どんな恋愛したらこんな文句が出てくるんだ。あざとい。
翔は、俺が使ったバスタオルを洗濯機に投げ込みながら言う。
「おかん、ご飯できたって。おかんなー、亜弥のファンやから今日は亜弥の大好物作ったんやって」
はーどないしよ、おかんに亜弥取られたら、なんて翔の棒読みが、耳を右から左へ通過する。
「はよいこ」
「ああ」
リビングまで翔のあとをついて行く。
1つ年下のくせに、こういうときだけこいつに負ける。
「……覚えとけ、あほ」
俺は目の前の翔に聞こえないように呟いた。
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