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――5分前
「ふぅーん……」
でた、と思った。
この人の口からふぅーんが出たら、もう最後だ。
独特の、間延びしたような言い方。
聞き入れているのか、それとも聞く気もないと言っているのか。
疑っているのか、探っているのか。
はたまた、同調してくれているのか。
……いや、それはないだろう。
それとも、何とも思っていないのか?
どうとも取ることができるふぅーんの言葉の怖さを、私はよく知っている。
だって、この人の口から出たが最後。残り時間はあと5分。
5分後、確実に口を割られるのは相手方。
私はそれを目の前で何度も見てきている。
……署内の、取調室で。
このままいけば、かなり早い段階で警部補に上がるだろうと目されている彼は、陰でこっそりと「仏のバラシ屋」と呼ばれている。
笑顔でニコニコしていて、怖そうな一面なんて何も感じさせないのに、いつの間にか何もかも白状させていくのがこの人の手法。
強面のヤクザ屋さんですら、「アンタにかかったら、全部バラされる」と皮肉気に笑わせるほどだ。
そんな彼の独特の手法を、私はよく知っている。
それなのに――
じりじりと、迫ってくる瞳が笑っているのか、笑っていないのか。
それがもう分からなくなってきている。
考えれば考えるほど冷静ではなくなってきて、指先が震える。
唇に力を込めて閉じると、ひっそりと彼の唇が上がった気がした。
一歩足を引くと、首筋に汗が一筋伝う。
喉が渇いた。今日はやけに……暑い。
「……で?」
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