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――4分前
「で……とは、なんでしょうか?」
悪あがきかな、と思いつつも少しでも逃げたくて、上げ足を取る。
ふぅーんが出てから、1分くらい経っただろうか。
だとすれば、あと4分逃げきれたら私の勝ち。
いや、この状況に勝ち負けなんてない気がするけれど……
私にとっては、勝ちになるかもしれない。
「あ、そう。……そういうこと、言うんだ」
にっこり。
僕、何でも知ってるんだよ。
君の隠してることなんて、全部丸わかりだよ?
そう訴えかけてくるような、細められた瞳と弧を描く唇。
警察官らしくない白い肌に、インテリ風なメタリックフレームのメガネ。
スッキリした髪型は悪く言えば坊ちゃんカットで、ダサくはないけれど、イマドキではない。
でもいつも私は――
「別にさ。僕も君を虐めてやろうと思って、聞いてるわけじゃないけど」
……嘘だ。
これがいじめでなくて、何だと言うんだろう。
私はこの状況に当てはまる上手い言葉が浮かばず、彼から視線を逸らす。
どうしたってにっこりと微笑む彼に、対抗できる表情が私には見つからない。
窓から通り抜けていく風が、私の首筋をぬるく攫う。
流れた汗が、嫌な形でへばりついた。
彼のふぅーんが、耳の奥で張り付くように。
「気になるよね?」
依然、にこりと笑んだまま問いかけてくる彼に、私はただふるふると震えた。
ちりちりと、小さく鈴を揺らすように頭を振る。
鈴の音は響かないけれど、髪の毛がサラサラと擦れる音が静かな室内では聞き取れた。
肩上で切りそろえたボブは、彼が以前一度褒めてくれた黒髪で……ともすれば日本人形のようなこの髪を、彼は、傷みがなくて綺麗だと言ってくれた。
それだけで――彼を意識し始めたと言ったら、笑われるだろうか。
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