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――2分前
「何でもないって言うなら、どうしてそんな質問が出たんだろうね」
不思議な現象だね。
そう言わんばかりの不思議そうな顔を、ごく自然に私へと向ける。
その顔があまりにも、自然で怖い。
演技じゃないよ、僕は本当にそう思ってるんだよって。
そう目が言っている……気がして仕方がない。
何度も見てきて知っているのに、私も被疑者と同じようにその術にハマっているのだろうか。
――この人のこれは演技だ。
分かっているのに、分からないフリをしている演技。
どこかでそれを理解しているのに、いざ同じ立場になると分からなくなる。
もしかしたら今日は、本当に分からなくて不思議だと思っているのかもしれない。
わずかに浮かんだもしかしてが、私の判断を鈍らせていく。
細められた眼。
上げられた口角。
少し傾げられた頭。
私は、どこに注目すればいいのだろうか。
ひりつく喉が、SOSを訴える。
水分などないとお手上げの口内からかき集めて、唾を飲みこんだ。
けれど全然乾きが癒えない。
欲しいのは、本当に潤いだろうか。
それとも――
「言ってごらん。聞いてあげるから」
ひたり。
また一歩詰められた距離に、私の踵が壁にぶち当たった。
あ……と思って視線を彷徨わせて見ても、逃げ場なんて見つからない。
どうして出口は、彼の後ろにあるのだろうか。
今更に、そんな後悔が過るけれど、……もう、遅い。
「ねぇ。何の根拠もなく、僕が尋ねるとでも思ってる?」
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