第3話 氷上の貴公子は、隣の席(1)

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第3話 氷上の貴公子は、隣の席(1)

 夜遅くまで楽譜と格闘していたせいで、一限目の小テストの存在を忘れていた。    二十点満点中六点。  ひどい。英語は得意なのに。  がっつり赤が入っている現実がにわかに信じられず、 「あの、私こんなに間違ってた? 」  と丸付けをした隣の霧崎(きりさき)君に訊いた。  そしたら鋭い目で見られて、あぁ昨日先生にもこんな目で(にら)まれたな、と思った。  霧崎君は少しの間無言だったけど、やがてこちらに身体を向けて、 「間違ってるよ」  と言った。  そして私の手からプリントを取り上げると、正しいスペルを横にさらさらと赤で書いた。  綺麗な字。てか、指細い。   「r一個足りないじゃん。他もそんなんばっか」 「ほんとだ……」 「人に聞く前に自分で確かめろよ」    冷たい声と共に、プリントが突き返された。  私は顔が真っ赤になった。  初めて喋ったけど、霧崎君って、こんなに嫌なヤツだったの。  霧崎君のファンだというあの子とあの子に言いふらしたい。  氷上の貴公子、リンクを降りたらただの嫌味な優等生だよ!   私は胸の中で悪態をつき、小テストを見つめる。  ……これ、メルカリに出したら売れるかな。  世界ジュニア銅メダリスト、霧崎洵(きりさきじゅん)直筆赤ペン先生。  
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