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第1話 妖精の記憶(3)
「山崎さん、聞いてる? 山崎さん、あなたの番よ」
「は、はいっ」
私はガタンと椅子から立ち上がった。
皆が私を見ていた。
全く授業を聞いていなかったので、何をやっているのかも分からない。
でも、黒板には平仮名で「こおり」と書かれてあったから、前に出てチョークを持ち、震える手で「氷」と大きく書いた。
「はい、よく出来ました。みんな、書き順見てた? 縦が先だったよね」
ホッと溜息をついて、席に戻る。
漢字って不思議。水に一つ点を加えると、氷になっちゃう。
窓の外を見ると、彼はもう消えていた。
後で分かったのだけど、氷の妖精は、隣のクラスの芝浦刀麻という男子だった。
しばうら、とうま。
漢字も響きも変わってる。
うちのクラスの荻島雷と仲が良いようで、休み時間になると時々話しにやってくる。
ドキドキしながら耳を澄ましてみると、コーナーが、直線が、タイムが、と言っている。
フィギュアスケートだけじゃなくて、スピードスケートもできるなんて。
エレクトーンとピアノ、両方を弾く私と同じだ。
私は勝手に親近感を募らせ、ますます彼のことが気になっていた。
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