第1話 妖精の記憶(4)

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第1話 妖精の記憶(4)

 四年生になり、私は彼と同じクラスになった。  近くで見ると、彼は思ったよりずっと普通で、背も小さくて細くて、頼りない印象。  勉強もできないし、体育の授業でもぱっとしない。  ……だけど、やっぱり目で追ってしまう。  氷上で舞う妖精のような姿が、焼き付いたまま消えなくて。 「里紗(りさ)って、よくとーまのこと見てるよね。好きなの?」  六花(りっか)ちゃんに指摘され、私は不覚にも黙り込んでしまった。 「赤くなった! やっぱりとーまのこと好きなんだ! 呼び出してあげよっか?あたし、仲いいし」 「やめて」  私は蚊の鳴くような声でやっと言った。  六花ちゃん、とーまって、名前呼び捨てにしてる。  荻島君達はシバちゃんって呼んでるのに。  ……そして私は、いまだに彼と言葉を交わしたことすら無い。 「とーま! 里紗が話あるって」 「わああ、ちょっと、本当にやめて」 「何?」  と、六花ちゃんに引っ張られて来る『とーま』。  多分この時、初めて目が合った。  結構迫力がある目をしている。  私は何も言えずにうつむいた。 「……お前、いじめんなよなー」  呟かれた言葉に、私はショックを受けた。  転校生。  彼にとって私という存在は、同じクラスになっても転校生のままなんだ。  そのショックはしばらく尾を引いた。  そして何とか自分の存在を印象付けようと、次の学級会、私は思い切って学級委員長に立候補した。  前に出るような性格じゃないのに、こんな勇気を出せたなんて自分でもびっくり。
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