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第1話 妖精の記憶(6)
それきり、私達は一度も話をすることはなかった。
まるで何事も無かったみたいに、一定の距離を保って過ごした。
そして一年後。
小五の夏、父親の群馬への転勤が決まり、私は帯広を去った。
今でも私は、彼の小指の感触を昨日のように覚えている。
思い出すだけで、胸が締め付けられる。
こういう思い出を、多分人は初恋と呼ぶんだろう。
だけど実のところ、私にはそれが恋だったのかどうかも分からない。
あれから五年、私は別の男の子を好きになったり、上級生に憧れたりもした。
けど、彼への思いはまるで別物だった。
あの気持ちだけは、名前が付けられない。
代えが利かない。
あの雪の日、私が音楽を奏で、彼が舞った、幻のセッション。
たとえ一方通行だとしても、私にとっては魂の交感だった。
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