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第2話 レッスン室と汚れた楽譜(2)
帰りの電車の中、私は書き込みで汚れた楽譜を虚ろな目で見つめていた。
何度勝手に書き直され、付け足され、削除されたか分からない曲を、どうしたらいいか分からない。
フランケンシュタインみたいに継ぎ接ぎだらけで、音が全然流れていかない。
何とか続きをひねり出してみても、またダメ出しをされて直される。
直せば直すほど先生は気に入らなくて怒るが、やらなきゃいけないのは、また直すこと。
もう身動きが取れない。
これが自分の曲だなんてどうしても思えない。
一つだけ言えるのは、こんな音楽では絶対に妖精は踊らないということ。
きっと、姿すら見せてくれないだろう。
終点、高崎。
アナウンスが流れる。
手動ボタンでドアを開けて電車を降りる。
私の頭の中の鍵盤は瀕死。
実はとっくに死んでいるのかもしれない。
銀色のシルエットが脳を過ぎる。
彼の頭の中の氷は、今も変わらずそこにあるんだろうか。
私は覚えてる。
両方、覚えているよ、と声に出してみる。
呟きは夜の空気に溶け、街灯の光に吸い込まれていく。
……覚えているから何だというの。
私の鍵盤だけ、見るも無惨に朽ち果てていたとしたら。
信号の前、ト音記号のボラードに足を止めた。
音楽の街、高崎だって。
目抜き通りの名前はシンフォニーロード。
街の五線譜に、私の音は転げ落ちていく。
ポケットからビー玉がこぼれ落ちるように、ぽろぽろと光の波間に消え、私はそのスピードに追いつけない。
喧噪に一人取り残されたまま、一歩も動けなくなりそうだ。
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