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「おや」
彼は私を見止めると、はやり微笑んだ。
「先日は、どうも失礼を」
「いえ、こちらこそ」
私は意を決して、どうしてもお尋ねしたいことがあるのです、と切り出した。
「先日、貴方は確かに言われた… この屏風は生きていると」
「…ええ」
彼は笑みを残して、ただその切れ長の瞳は鋭く光る。僧と言うより武士の様に剣呑な、その眼差しに私ははやり後悔する。
しかし、後戻りは出来なかった。
本当かと、私が誰何する前に。
「こちらに居る童はお八つのことで姉と諍いましてね、へそを曲げて外に出て来たのです。姉も譲らなかったのを気にしていましたので、そろそろ迎えに来るでしょう」
「は?」
なにを、言っているのか…
「そちらの振り売りは今日は上手く商売が進んで、早々に売り切れましたが、その上がりをすっかり飲んでしまいましてね。この先で女房が待っておりますが、きっと夫婦喧嘩に」
「あの商家から出て来た南蛮人たちは…」
雲水は次々に屏風絵の人物を示しては物語る。まるで見て来たように。
「あ、貴方は」
「私も平素はこの中に居ります」
「…え?」
彼は一層美しく、笑んだ。
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