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 心臓がドクドクしているのは、これから起こることに期待しているせいなのか、いや、それはない。ただ自転車をこいで息が切れてるだけ。  第一、初めてのふたりきりの外出にこんな格好はない。つまり、そういうことではないんだと自分に言い聞かせる。  コンビニの明かりでよく見ると、高遠くんも似たような格好だった。そして片手に黒い、長い重そうなものを提げていた。三脚付きのカメラのように見えた。  クラスLINEで連絡先を知ったんだよと、会った時に彼は照れ笑いした。 「少し歩くけど、いい?」  全然わけがわからなかったけど「いいよ」と答えた。彼はコンビニの看板の明かりの下で満足そうににっこり笑った。  そして、ちょっと我慢して、と体にスプレーをかけられた。よく知った虫除けスプレーの匂いがした。  これからどこへ行くのかと思うと、淡く光る街灯の明かりにわたしは少し怖気付いた。少し不安だった。  行こうか、と彼は自然に歩き始めた。ゆっくり、それでいて男の子の歩幅で。  そこは里山の自然を守るために作られた遊歩道で、小川の河岸をコンクリートで固めず、自然のまま守るために作られた小道だった。  もう少し早い時期なら蛍もちらほら飛ぶ。  しかし後ろを振り返ると街の明かりが見える。  わたしたちの育った土地はそんなアンバランスな場所だ。  高遠くんは迷うことなく田んぼの奥の傾斜地の方に歩いていった。歩道の行き止まりは昔ながらの、自然な林だ。もう暗いのに林の中に入るというんだろうか? 「ここかな」 「ここ?」  奥まった歩道の上で彼は立ち止まった。行き止まりでもない、なんでもない場所で立ち止まったことに戸惑う。  よっこいしょ、と年寄り臭く彼はしゃがんで、小さめのレジャーシートを広げた。 「どうぞ座って。蚊に刺されないといいんだけど、長袖長ズボンで来てくれてよかった」 「だってそう言ったじゃない」 「うん、信じてくれてよかったよ」  思っていた以上に彼は人懐こい笑顔を見せた。なぜだろう? ほとんど知らないひとなのに彼をよく知っているような気持ちになるのは。いままで共通点のひとつも見つからなかったのに。
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